⓵夢を語り
⓶目標を示し
⓷感動を与え
⓸感謝し
⓹誇りを与えること

● 先日、金沢で講演の後の懇親会のとき、女性経営者の方が、挨拶に来た。名刺交換の長い時間から解放された直後であったから、その方も列が終わるのを、遠くから眺め、タイミングをみていたのだろう。名刺を見ると、美容院を数店経営をしていることが分かる。

●「そうですか。頑張って経営をしてくださいね」と言うと、「実は、そのことで、教えて頂きたいのです」という。「なんでしょうか」と尋ねると、「若い子がすぐに辞めるんです。最近も効率をよくするために、一人ひとりにタイマーを渡したんです。技術向上のためと思って。

● ところが、次々に辞めていくんです。やはり、時間に拘束されて、仕事はしたくないって。若い子たちのことを思って、いろいろやっているのですが。どうしたら、いいでしょうか」と言う。

● そこで、「あなたのお店も知らないし、美容師さんたちも知らないし、第一、あなたにも、いまはじめてお会いしているのだから、無責任なお話はできない。しかし、今のお話だけで感じたことで、アドバイスさせて頂くとすれば、タイマーを、なぜ渡すのか、置くのかという説明がないというか、あなた自身の経営の仕方にひょっとすると、考え直したほうがいいところがあるかもしれない。

● この場合、大事なことは、若い美容師さんたちに、夢というか目標を持たせ、誇りを持たせることだと思う。タイマーを渡すのも、仕事の効率を上げて、技術向上させるためというだけでなく、なぜ、技術向上を求めるのか、それは、店のため、売り上げのためではなく、あなたが技術を向上させたら、東京の銀座とか青山の美容院に移って、カリスマ美容師になってほしいからよ。

● 技術が向上して、もう大丈夫だとなれば、私が東京の銀座のいくつかの美容院と話をして、紹介するから。ここでは、だから、そのために技術を向上させてね。ここは、大学進学の予備校よ、と言ってみたらどうですか?ここで、いつまでも、と思わせるような話ではなく、それぞれの美容師さんに、夢とか、目標とか、誇りを持ってもらうような話し方をしたら、どうですか。そして、私の夢は、あなた方がカリスマ美容師になってもらうことよ、とも。

● とにかく、美容師の皆さんに、夢とか、目標とか、誇りを話してあげてみてはいかがですか」と話した。大いに納得して、「そういう話をしたことはありません」と喜んでいた。

● 大阪の、あるチョコレート屋さんは、80人の従業員の女性社長。ご主人が体調を壊したので、社長になったが、従業員が次々に辞めていく。当然、人手不足になった。どうしたらいいのか、途方にくれる。

● いろいろと悩みに悩んで、出した結論が、「世界を目指そう」「この会社から、世界一のショコラティエ を生み出そう」という、「夢」というか、「目標」。この言葉は、世界を変えるまえに、従業員の意識を変えた。誇りを持たせた。毎年、フランスで開催されるチョコレートの世界的祭典「サロン・デュ・ショコラ」に出品して、賞を取ろうといういうこと。

● そのように社長が夢を語り、目標を語り続けると、従業員も辞める者がほとんど無くなり、意欲が生まれ、誇りを持ち、職場の雰囲気も一変、活気が出てきた。

● もちろん、主要ポストを次々に実力ある女性に代えたり、大胆な業務の改革をしたり、女性従業員が働きやすい環境を整えたり、余った予算は商品開発に投資たりして、次々と斬新な商品を考え出していく。

● 結果、去年、遂に、「世界を代表するショコラティエ100人」の第2位という快挙を成し遂げた。この快挙、もちろん、さまざまな改革によるものもあるが、それ以上に、はるかに大きい原動力は、女性社長が従業員に、夢、目標、誇りを与えたことだ。そのチョコレート会社で、ただ働いているだけでは、従業員は、毎日、同じ作業をしているだけだから、働く意欲は出てこない。だから、辞めていく。

● 要は、従業員が、自分たちの会社の社長は、なるほど、このような夢を持っているのか、なるほど、このような目標に向かって進んでいるのか、ということになれば、従業員は、自分も立ち位置が明確になるから、やり甲斐、働き甲斐も生まれ、そこに、働く誇りも生まれてくるのである。

● この話はご存知の方も多いと思うが、ある日、一人の旅人がスペインのバルセロナの道を歩いていると、道端で一人の石工(いしく)が、石を彫っている。旅人は、声をかけた。「なにをしているのか?」その石工は、「この石を彫ってるだけだ。しんどくて疲れているし、じゃまだから、向こうに行ってくれ」と腹立たしげに言う。

● しばらく歩いていると、別の石工が同じように石を彫っている。旅人は、また同じ質問をした。するとその石工は、誇らしげに、「私は今、世界で一番美しい大聖堂の、あのところにおさまる石を彫っているんだ」と、指差しながら言う。同じ作業をしながら、一人はやる気なく石を彫り、もう一人は誇らしげに石を彫っている。

● 松下幸之助さんの経営の成功も、従業員に、⓵夢を語り、⓶目標を示し、⓷感動を与え、⓸感謝し、そして、なにより、⓹誇りを持たせたことによるものであったのではないかと、私は思っている。

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