松下幸之助の経営理念を
「破壊」しただけで
新しい経営理念の
「創造」がないところに
苦戦、低迷の根本原因が
あるのではないか。

● 先日、ある週刊誌を読んで失笑した。現在、パナソニックが経営的に苦戦し、のたうちまわっているのは、「松下幸之助イズムが歴史の遺物」によるものであり、「松下幸之助の呪縛」、すなわち、創業者の意見や思想に、心理的に束縛され、自由が奪われているからだという。

● にもかかわらず、「創業者の意見や思想を受け継ぐことは悪いことではない」とあるが、悪くないなら、創業者の意見や思想に基づいて、経営に取り組むことは、「呪縛」でもなんでもないのではないか。

● 加えて、ジャーナリストの某氏が「松下幸之助が家電を重視していたことから、まず、家電ありきで、モノを考えてしまうからでしょう云々」とコメントしているのは、事実としたなら、笑止千万という以外にない。

● 「長年、家電業界を取材してきた」かもしれないが、松下幸之助の理念や哲学を深く読み込んだことはなく、ただ、見えるところを見てきた人であることは間違いない。松下の思想、哲学をどこまで読み込んだうえでコメントしているのか。少なくとも、『松下幸之助発言全集』を読んだことがあるのか、疑問に思う。

● 松下幸之助が、いつ、家電重視の発言をしたのか。私は23年間、松下から、直接、そのようなことを聞いたことはない。実際、松下幸之助の考えた「産業人の使命」は、モノを豊かにし、人々を幸せにすることである。(※コメント欄参照)

● おおよそ、経営をおこなっていく場合、「普遍性と時代性と国民性」を考えなければならない、というのが、松下幸之助の経営の基本の一つである。「普遍性」とは、「人間大事」。「時代性」とは、「その時代時代によって、技術や環境の変化に即応すること」。「国民性」とは、「それぞれの国の伝統精神、風習に対応すること」。

● 松下が「変えてはならないもの」としたのは、「人間大事」であり、「変えなければならないもの」は、「その時代に即した技術、環境」。また、「海外それぞれの国に応じた対応」だと説いている。

● 誰が、家電に重視せよと言ったのか。誰が、家電以外に取り組むべきではないと言ったのか。松下幸之助なら、「人間大事」を堅持しながら、時代に即した技術、ITやAIを駆使したデジタル化やネット化に素早く対応した経営、それぞれの国に即した経営を推進すべき」と言っていたのではないか。今頃、それこそ、GAPFAになっていたかもしれない。

● パナソニックが経営的に低迷し、のたうちまわっているのは、「松下幸之助の呪縛」や根拠のない「家電重視」に原因があるのではない。いや、むしろ、松下幸之助の打ち立てた経営理念という「灯台の破壊」に原因があるのてはないかと思う。すなわち、松下幸之助の考えや思想の否定、否認が、低迷、苦戦の原因ではないのか。それがまた、社員の心の混乱と自信喪失を惹起(じゃっき)しているのではないのか。

● 今こそ、原点、すなわち、松下幸之助の理念、経営哲学に立ち戻り、「変えてならないもの」と、「変えなければならないもの」を峻別し、経営を立て直すことだ。でなければ、ますます濃霧の中を歩き続けなければならないだろう。

● 「創造と破壊」などと高らかに謳い上げながら、松下幸之助の思想や経営哲学を「破壊」しただけで、なにも「創造」しなかったことこそ、今日の混迷の最大の原因があることを、当事者たちもマスコミも識者たちも、勇気を持って指摘すべきではないか。

● 「松下幸之助の呪縛」とか、「松下幸之助の亡霊」などと言っている限り、社員は戸惑い続け、自信喪失に陥るばかりであろう。社員の多くの心の中で、「松下幸之助」は、埋火(うずみび)の如く、消えてはいない。

● 要は、今日の苦戦は、「経営混乱」ではなく、「理念混乱」だということである。70年間の長きにわたって、骨の髄まで染み込んだ経営精神のDNAは、消そうとしても、否定しようとしても、不可能だろう。

● マスコミやジャーナリズムの馬上観花で書かれた記事、コメントに左右されることなく、なにより当事者たちが「原点に立ち戻る勇気」を持つことこそが重要かつ緊要だと思う。

● また、混乱、苦戦の原因を、「死人に口なし」とばかり、いまは亡き創業者の責任にする卑怯さからは、建設的な方策は、なにも生まれてこないことを承知しておくべきだろう。

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